23人が本棚に入れています
本棚に追加
『人』が鋼を打って鍛えた刀という名の武器を握り締めながら走る青年は、前方を風のように駆け抜ける敵を追いかける。
間違いない、確実に相手を追い詰めていると青年は高揚の気持ちを抑えた。
青年はどうしてもその敵を捕まえなくてはならない理由があった。
ーーーーーーーーーーーーーー
少し時間を巻き戻す事、数刻前。
人を脅かす存在である『妖』を討伐する討伐隊の編入試験に、この青年は期待しながら参加した。
その試験で言い渡されたのが『逃げ続ける鬼に痛手を負わせる事』だった。
染め物のような深い紺の色の髪を持つ討伐隊の鬼頭、隊長の鳴弥(なりや)が試験官に選んだのは討伐隊随一の戦力を誇る壮燗(そうらん)という名の鬼だった。
隊長の鬼とは対称的に燃え盛る火を連想させるような赤髪の鬼は、嫌々ながらも数十の討伐隊に志願した者から逃げた。
逃げ続ける鬼を追いかけ、やがて人も鬼も足を踏み入れないような鬱蒼とした森の地で赤髪の鬼は姿を眩ませた。
「…絶対に見つけてやる…! 」
青年は自身の心に檄を込めるように、鬼の面を顔に付けた直後の事であった。
志願した同志の者が、塊で近くに根を下ろしていた巨木に打ち付けられる。
ある者は伸び、ある者は痛みから呻く。
試験官の仕業に違いないと青年は息を殺し、自然と同調しながら対象に近付いた。
最初のコメントを投稿しよう!