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勢いよく飛んでゆく苦無は、青年に放っていたものと比べると格段に速い。
剣先についた鋼糸が後方に立つ敵の右腕に巻き付いた。
そのまま引き寄せようと試験官は力を込めたが、後方の敵の方が僅かに速かった。
試験官は相手の力に負けて前のめりになると同時に、側頭部を狙った鋭い蹴りが入る。
攻撃を受けてよろめく試験官は、青年の事を無視して後ろに大きく飛び退く。
敵の鬼も逃がすまいとその距離を素早く詰める。
試験官は一瞬だけ手元を見やった。
その敵が青年の横を擦れ違うとほぼ同時に、にやりと笑う。
「余裕だな、黎(れい)」
ただ一瞬の隙に付け入る鬼は試験官の首を掴み、大木の幹に抑えつけた。
相当な圧力が首に掛かるのか、試験官の鬼は呼吸を詰まらせる。
「かはっ…! 」
何が起こっているのか把握仕切れない青年は、身動きも許されないまま傍観する事しか出来ない。
勝負が決まった事を見て敵の鬼は、試験官の首を掴む手の力を緩める。
「ふざ…っけるなよ…、壮…」
息苦しさから解放された試験官は軽く咳き込みながら、目の前に立つ人物を睨み付ける。
「今度は…何なんだよ? 壮燗」
その時まで気が付かなかったが、青年が試験官だと思っていた人物は赤の他人だった。
本来の試験官である壮燗は勝敗を決めた訳に歩み寄る。
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