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地面に突き刺さっている苦無を引き抜くと、壮燗はそのまま青年に襲われた鬼にそれを渡す。
「いや、ごめんごめん。そう怒るなって。眉間に皺が刻まれるよ」
「そういうお前は事後報告ばかりだよな。あと、鋼糸、今で何本目だ? 」
「あはは。僕、そんなに切ったっけ? 」
「しらばっくれんなよ、能天気」
このまま放っておいたら続いていきそうな言い合いに、試験に志願した青年は遠慮がちに申し出た。
「あの! この…呪縛…、解いてもらえませんか? 」
「え? 」
「は? 」
試験官に間違われた鬼と、試験官である壮燗の声が重なる。
可笑しかったのか壮燗は、あはは、と乾いた笑い声を出した。
そのまま青年の元に近寄ると、躊躇う事なく恤符に触れる。
「すぐ、解いてあげるよ」
「あっ! ちょっ! だめですよっ! 他者の恤符に触れた、ら…ーー」
恤符は、呪符を制作者の血液に浸してつくるため、本来ならば制作者以外に使役や解除は出来ない。
それに加えて一般的に鬼は他者の血からの汚れを恐れる為に、触れようとする者はないに等しい。例外も稀にいるが。
恤符に触れる壮燗の指先が一瞬、朱に染まる。
触れてはならない、他者の恤符に平然と触れてその効果を切れさせる壮燗に、恤符の持ち主である間違われた鬼が注意を促した。
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