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「それはお前が手加減しないからだろうっ! 手加減を覚えろ、いい加減に! 」
「ええー、手加減くらい、僕はいつもしてるけど? 」
どこまでも自由気ままな壮燗に、文字通り手を焼く黎嵐は溜息しか出てこない。
お前の手加減にも振り回されたのか、と言葉になりそうだった黎嵐はぐっと堪える。
腕を流血させる黎嵐は、居心地を悪そうにしている青年の存在を目に入れた。
首を傾げたまま固まっている壮燗に、黎嵐は目線だけで合図を送る。
するとああ、と言って壮燗は青年に向かって笑いかけた。
「おめでとう、響八(ひびや)。きみは合格」
「…へ? 」
予想外の言葉に、響八と呼ばれた青年は茫然とした後に表情を和らげた。
「あ、ありがとうございますっ」
「えーと、黎。千羽の所に行って傷治しておいで」
「…言われなくてもそうする」
顔をしかめる黎嵐は腕を庇いながら彼らから背を向けた。
その時であった。
何か良からぬ気配を察したのは壮燗以外にも、その場を去ろうとした黎嵐も足を止める。
「え? えっ!? どうしたんですか? 」
妖の討伐隊の試験に合格したばかりの響八は、急に豹変した二人の鬼の反応に戸惑う。
「あぁ、ここにいたか。壮燗さん…? あれ? 黎嵐さんも? 」
身なりが討伐隊の服とは異なる鬼が駆けつけ、二人に目を合わせる。
言うまでもなく、壮燗はその鬼に向かって紙屑を捨てるような感覚で言った。
「妖、出たんでしょ? 響八も連れてく」
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