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「…ったく、
ここは猛獣舎かっつーの」
夜、賑かな宴を終えて皆寝静まった頃。キッチンにはひとりの人影があった。
入浴を済ませ若干濡れたままの癖毛を掻き上げながら船のキッチンでため息をつく。
どんなに蓄えてもすぐに食糧が底をつく船員達の食欲に苦笑を浮かべ、食糧庫の確認を終えて作業台に向かうと、鍋に湯を沸かし始めながら先日作ってみたブランデー入りのチョコを一粒摘まんで口に放り込む。
彼は、この海賊船の料理長、ヨウ・ニコルソン。
黒いウェーブのかかった髪を首に触れるほどまで伸ばし、小麦色に焼けた肌を隠すことなく、上半身裸で過ごす、色男である。
「失礼します
ニコルソンさん、起きていますか」
コンコン、と軽い音がしてから扉が開く。
次の島が近づき、日用品の買い付けをしなければ、とリストを作っている最中、食料品や台所用品のことを料理長に聞こうとキッチンのドアを開けて入る。
すると、相手がちょうどチョコレートを食べながら、湯を沸かしていたので、珍しくウィットを込めて笑って、「私の為に菓子と茶を?気が利くのですねぇ?」などと茶化す。
彼の名は、王璃桜(ワンリオウ)、この船を影から支える副船長である。
漆黒の髪に、船上生活には似ても似つかない青白い肌。典型的なアジア人体型である華奢な体躯をコートに包み、常に眼鏡の奥で野望を光らせている。
「…あ?
あ、あぁ…何?買うやつ?
夜中までご苦労なこった…」
副船長─リーが入ってくれば、ヨウの視線はそちらに持っていかれ、まさか、お湯を沸かしたのは、武骨な己に似合わぬチョコ細工を作るためのものだったとは、気恥ずかしくて言えずに立ちすくんだ。
途端、口に含んだチョコが溶けブランデーが口内に拡がった矢先だった為に思わず口先から溢しそうになり、相手を軽く睨んで、あんたの為に沸かしてなのでは無いと言いたげに話題を反らす。
冷静になり始めると、相手の言葉は脳内に落ち込み、いつもの買い付けリスト制作だろうと察っし、己はあくまで茶を飲みに来た事にしておこうとリーに背を向けて戸棚からティーカップを取り、「ご注文は?」と一応呟くように尋ねてみる。
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