とある年のクリスマス

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「それにしても、お兄ちゃん遅いね」 当然のようにお茶に手を伸ばしつつ、妹が呟いた。 「ホントに、兄貴、来んの?」 当てにしてない表情で、弟までも首をかしげる。 おーい、長男。 逃げ続けてたつけは、大きいぞ。 私は、フォローしようもない状態に苦笑を溢す。 「唯、門のトコでお星様もって、立っててごらん。しゅうくんくるから」 「はーい」 私の言葉に、唯は素直に答える。 「相変わらず、唯は兄貴好きだよな」 「っていうか、お兄ちゃん来てんの?」 二人の反応がそれぞれで、あんまりらしくて、笑っちゃう。 「まぁ、唯にとっちゃ、私に似てるから、懐きやすいんじゃない?  志優は来てるよ。さっきから白のセダンが何回も家の前徐行してるもん」 「やだ、何それ、ばっかみたい!」 妹がよっこいしょ、と、縁側から下りて突っ掛けを履き、門のところへ向かう。 次に回ってきたときには、ガツンと活を入れられてることだろう。 「兄貴もなぁ…」 溜め息のように、弟が呟いた。 「クリスマスを祝ったり、法事をしようって云って、この家に帰れるようになっただけ、志優には進歩よ」 「ま、そうなんだろうけどね」 妹が立ったあとに坐り、弟がずずっとお茶をすすった。 このところ、弟は穏やかな顔をするようになった。 この家も、妹が云うほどに前のままじゃない。 一時は驚くほどに母が居たころのままだったけど。 「悠汰、ありがとね」 そう声をかけたら、弟はお茶をすすりながら『うー』とも『むー』ともつかない声を出してた。 車の停まった音がする。 もうじき、三人が戻るだろう。 「俺、そろそろバイトの時間だから、唯の星、兄貴につけてもらって」 母の字で“クリスマス”とかかれたダンボール箱に星を入て、弟は部屋に向かっていった。
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