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『山野さんですか?』
衛藤が年上の女性の方に声をかけた。
『…はい…』
カウンターの女性が二人とも振り返って衛藤を見た。
『佐城さんの奥さんから頼まれました』
衛藤は名刺を山野絵里子に差し出した。
『じゃあ、さっきまであなたと一緒にいた女性が佐城さんの奥様だったんですね』
山野絵里子が言った。
『はい。あなたの顔を覚えたくないからと言い先に帰りました。佐城さんの奥さんに電話でこの場所を教えたんですよね?彼女に何か話があったのなら私が代理で聞きますが?』
と衛藤が山野絵里子に尋ねた。
『…。もう、とっくに終わってた。いえ、私と佐城さんは始まってもいなかった。
お幸せにと伝えて下さい』
山野絵里子は少し俯いて言った。
『お母さんを許して下さい。私がお母さんを一人ぼっちにしてしまったから…私もいけないんです』
杉みちるが母を庇った。
みちるは同世代より人を思いやる気持ちが強くあると衛藤は感じた。
きっと、不仲な両親の空気を感じながら顔色を伺い生活していたんだろう。
…子供が一番の犠牲者だな…
BARを出てホテルへ向かう帰り道に衛藤は自分の娘の事を思った。
…うちの娘も何処か大人びていて、手が掛からない子供だ…
衛藤は帰り道に久しぶりに留学中の娘に国際電話を掛けた。
『…ゥ~Hello』
寝ボケた久しぶりの娘の声が聞こえた。
『寝てたのか?』
『親父?!当たり前でしょ?今、まだ5時前だよ』
娘はイラっとして答えた。
『元気そうだな。良かった』
衛藤が安心したように言うと
『それだけで?…親父なんかあったの?相談に乗ろうか?』
と生意気な口調で娘が言った。
『お前は寂しくなかったのか?』
『どうしたの?
あっ…寂しい時もあったよ。
でも今は大丈夫だよ。私、ママの事は今も大好き。それに親父も。あと、最近、夢が出来たから…私の心配より自分の心配しなよ。もう年なんだからさ、早く新しい奥さん見つけなよね。電話する相手が娘しかいないなんてこっちが心配するよ』
と娘に言われ衛藤は苦笑いした。
『お前は…。お父さんも頑張ってるぞ!お前の夢ってなんだ』
『親父みたいな建築家になる。いや、超えちゃうかな』
衛藤は電話を切った後、
夜空を見上げて鼻を啜った。
そして、喜びを隠そうとしても顔がほころんでニヤ気てしまった。
…アイツ、俺の後を継ぐんだな…
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