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episode 76 混乱
どれだけ
時が過ぎたのだろう――。
見覚えのある部屋で
僕は目覚めた。
「やられた……」
簡素なソファーベッドの上。
頭がクラクラする。
「朝が来ても――誰にも見つからないところへ行こう」
ハムレットの亡霊が残した
あの言葉どおり。
カーテンの隙間からのぞく
窓の外はもう白んでいた。
僕はふらふらと立ち上がる。
思ったとおり――ここがどこだか知っている。
子供の頃に何度か来た事がある。
天宮家の別荘の一つだ。
コトリ――。
背後で木製の古いドアが開く音がした。
「……どうしてです?」
振り返り
僕は朝靄の中に立つ男に問いかける。
無言のまま近づいてくる。
病的なほど真っ青な顔をして。
春なのに外はそんなに寒いのか。
吐く息が白い。
彼の透けるような肌と同じぐらいに。
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