episode 78  暗雲

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「――吸う?」 「ううん。僕さ、タバコって嫌いなの」 「そう」 「普段はね」 僕は椎名さんの筋肉質な腕をおもむろにつかむと 「だけど美味しい――悪いことした後だけ」 指先に唇を這わせるようにして 彼が持っている煙草を吸った。 涼しい目が僕を見下ろす。 「そう――美味しいの」 何を考えているのか 察しはついた。 灰皿に煙草を揉み消すと 椎名さんは隣に座った僕を優しく抱いた。 「ねえ。彼は天国に連れて行けたけど、君と僕はどうしようか?」 向かい合う形で僕を膝の上に乗せる。 優しい口ぶりとは裏腹に その手は強引に僕を抑え込んで逃さない。 「どうするって?」 言いたい事は分かってるんだ。 「教えてよ――椎名さん」 だから僕は余計に 甘えた手つきで 彼の前髪をかき上げ弄ぶ。
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