episode 97 同類

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「何?」 「夜中のホテルは声が響くんだ」 九条さんは言うと――。 「平気だよ。実はさ」 「――ダメだって」 おしゃべりな九官鳥のくちばしに 不意に己の唇を押し当てた。 そして次の瞬間。 「お父様、いるんだよ」 しかつめらしい顔をした恋人の口から――。 「なんですって?」 信じられない言葉が飛びだす。 「お父様も明日の会合に出席なさるから――いま隣の部屋に」 「隣の部屋……」 言われたとたん僕は 「和樹?」 壁にぴったりと耳を当て――聞き耳を立てる。 「なるほど」 たしかに――。 夜中のホテルは声がよく響くんだ。 「お父様おひとり?」 「いや。高山と一緒だよ。よほど彼を頼りにしてるんだ。片時も傍からお放しにならない」 「やっぱりね――」 だとしたらきっと今も ベッドの中で一緒だ――。 「やっぱりって何さ?」 僕は不思議そうに立ち尽くす九条さんを手招きする。 「聞いてみて――」 「悪趣味だよ」 「いいから」 かすかに だけどはっきりと聞こえる。 押し殺した喘ぎ声。 かすかな衣擦れの音。 そしてリズミカルにベッドが軋む音。
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