episode 98  食うか食われるか

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ああ、待てよ。 以前僕らみたいな性倒錯は嫌いだと さんざん嫌味を言われたから少し仕返ししてもいい。 用意周到な執事なら 秘密がもれて追い出される前に 取る物だけ取ってさっさとあなたの元を去るかもしれない――。 そう教えてやるのがいいだろう。 これからも彼を傍に置いておきたいなら。 いやこれからも彼の支配下で悦びに浸りたいなら――。 危機を逃れる方法はただひとつ。 危ない秘密がもれないように おしゃべりな僕の口に 餌を突っこんで塞ぐしかない――。 餌はもちろん 薫お兄様には不釣り合いな 天宮家の次期当という肩書き――。 薫お兄様だって大好きなお父様がお決めになったこととあれば、反対しないさ。 あの人もともと家督になんて興味はないもの。 かすかな音を立てて ――隣の部屋の扉が開く。 何も知らない天宮家の御当主様が パーティー会場へ向かう音。 「よし、行くか――」 この先に何が待ち受けているのか 露ほども知らず――。 鏡の中。 嬉々として微笑み僕はその後を追う。 まさにウサギとカメのウサギさん。 一歩先を行っている気でいたんだ。 少なくともこの時までは――。
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