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パーティー会場に足を踏み入れると
「いたいた」
すぐに見つけた。
年の割にスマートな後姿。
――天宮家の当主その人だ。
「お父様」
声をかけると
「か……和樹……」
面白いぐらい目を丸くして僕を振り返る。
「……どうしてここに?」
僕が天宮家のトラブル・メイカーだって知ってるから?
それとも昨夜の後ろめたい情事のせい?
疲れ切った表情で当主は言い淀む。
「恋人追って来たのですよ――お父様」
僕は他のゲストに屈託のない笑顔を振りまきながら、意味深に声をひそめる。
「ところで、昨夜はよくお休みでしたかしら?お隣にいらっしゃるなんて知らなかったものだから。僕らのいい声が聞こえていなければいいのだけど……」
自分にも思い当たる節があるからだ。
「よさないか、こんなところで!」
怒りと羞恥心の入り混じった表情で
――頬を赤らめ僕をたしなめる。
「ああ、お父様。すみません――至らなくて。だけどこれでも、場をわきまえていないことぐらい十分承知なんです」
そんな顔してもダメさ。
僕は可愛い蛇の如く
当主からまとわりついて離れない。
「だからこれはワザとなんですよ、お父様――」
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