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「簡単ですよ。僕はね、いただきたいの。本来ならただ一人、前当主と血の繋がった僕が――当然手にするはずだった天宮家の家督を」
天宮家の家督は僕らの野望だった。
亡霊のように突然後から現れて
何も知らないくせに当主の座に収まった――。
その上、執事にいいように操られているような男が手にできるものじゃない。
「いいでしょう?薫お兄様はもともと家督になんて興味のない方。大好きなお父様が仰れば、二つ返事で僕に後継者の座を譲って下さいます」
僕の言い分に、反発する言葉はなかった。
だけどその代り――。
もううんざりだという溜息。
そして半分は――いい気味だという嘲笑。
「君が求めるものは分かった。だが少し遅かったようだ」
天宮家の当主は目頭を押さえ、頭を振った。
「遅いって……?どういうことです?」
「分からないか?」
そこで初めて
僕の五感が周囲に向けられる。
「天宮様――やはり跡継ぎを変更なさったって」
「ええ、私もその方がいいと思ってましたわ」
「ご次男は芸術肌でいらっしゃるもの」
あちこちから漏れ聞こえる
――声量ばかり押し殺した筒抜けの噂話。
「まさか――」
そして人々の視線の先。
厳格でかつ洒脱なスーツの背中。
洗練され鍛え上げられたエレガンス。
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