episode 98  食うか食われるか

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ホテルでのうのうと遊んでいたウサギ。 追い抜いて行ったのはのろまな亀なんかじゃない。 ハングリーなオオカミ。 いや立派な鬣(たてがみ)をなびかせた百獣の王だ――。 「今朝早く薫が電話してきて、征司くんに後継者の座を譲りたいと言いだした。いくら尋ねても理由を言わないものだから、おかしいと思ったが……」 「薫お兄様が……?」 「こういうことだったとは……」 きっとあの後 父親の件で征司は薫を脅したんだ。 そんな狡猾さは露ほども見せず 征司は行く先々――。 ゲストと挨拶をかわしながら貴公子然として微笑む。 「後継者は征司くんだと先代の頃から信じていたよ」 「まあ、まだ独身でいらっしゃるの?家の娘どうかしら?」 「今後ともどうぞ懇意にお願いしますね」 聞こえてくる言葉はそう 適任――まさに適任。 「まあ、なんて可愛いお坊ちゃんだこと」 そんな中――。 どこぞのご婦人と談笑しながら 征司は僕に近づいてくる。 「奥様、三男は観賞用ですよ。綺麗なだけで、なんの役にも立ちませんからね」 冗談めかした口先――しかし。 「――俺を出し抜いたつもりか、道化?」 冗談ではすまない 耳元で囁く冷たい声。
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