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ホテルでのうのうと遊んでいたウサギ。
追い抜いて行ったのはのろまな亀なんかじゃない。
ハングリーなオオカミ。
いや立派な鬣(たてがみ)をなびかせた百獣の王だ――。
「今朝早く薫が電話してきて、征司くんに後継者の座を譲りたいと言いだした。いくら尋ねても理由を言わないものだから、おかしいと思ったが……」
「薫お兄様が……?」
「こういうことだったとは……」
きっとあの後
父親の件で征司は薫を脅したんだ。
そんな狡猾さは露ほども見せず
征司は行く先々――。
ゲストと挨拶をかわしながら貴公子然として微笑む。
「後継者は征司くんだと先代の頃から信じていたよ」
「まあ、まだ独身でいらっしゃるの?家の娘どうかしら?」
「今後ともどうぞ懇意にお願いしますね」
聞こえてくる言葉はそう
適任――まさに適任。
「まあ、なんて可愛いお坊ちゃんだこと」
そんな中――。
どこぞのご婦人と談笑しながら
征司は僕に近づいてくる。
「奥様、三男は観賞用ですよ。綺麗なだけで、なんの役にも立ちませんからね」
冗談めかした口先――しかし。
「――俺を出し抜いたつもりか、道化?」
冗談ではすまない
耳元で囁く冷たい声。
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