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「あとは彼と話し合いたまえ――正直なところ、私は天宮家の跡取りなど誰でもいい」
愛しの執事様を探しているのだろう。
僕らから逃げるように当主は踵を返し去ってゆく。
「――色ぼけしやがって。ま都合はいいがな」
血も涙もない冷笑を浮かべ
征司は父親の後姿を見送る。
「征司お兄様……」
「逃げ足は早くても、寄り道がすぎたようだな?和樹」
昨夜の時点で、僕が九条さんのところへ来ていた事なんてお見通しだったんだろう。
それでも嫉妬心の欠片さえ見せないのは――プライド?
それとも完全なる勝算があるからか?
「言っておく。俺と同じものを欲しがるな――」
いいや
頭ごなしの命令なんかじゃない。
その声はどこか憂いを帯びて
――そう哀願するようにさえ聞こえた。
「征司お兄様……?」
まっすぐに僕を捕える瞳。
強く貪欲で気高い
屈折した僕の愛――。
「俺の横に並ぼうと思うな――俺と肩を並べるな」
タノムカラ――。
その声だけで
僕は身動きがとれなくなる。
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