episode 98  食うか食われるか

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征司が去ってすぐ――。 「旦那様……!」 息せき切って会場の入口に現われた 当主の専属執事。 用もなくなったパーティー会場で 惨めに立ち尽くす僕になど一瞥もくれず 「……一体どういうことですか!」 凄い形相で当主に詰め寄る。 天宮家の財産を牛耳るつもりで画策してきた美貌の執事。 お父様の言いなり――もとい己の言いなりになる薫を後継者に決めたはずだったのに。 「残念ながら上手くいかなかったみたいだね」 「九条さん……」 ここにきて兄弟の中でも一番扱いにくい長男が――後継者候補に取って代わってしまったわけだ。 「征司お兄様に先を越された……」 「ああ、聞いたよ。考えることが同じとは――君たちやっぱり兄弟だ」 当の主の方は――。 「待ってくれ!」 恋人に追いすがるような目をして 不機嫌な執事を必死で繋ぎ止める始末だ。 「これが人生――。もう良く知ってるけど一筋縄じゃいかない」 妙な疲労感。 そして脱力感。 気取ったポケットチーフを投げ捨て 僕は大きな溜息をついた。 「先に帰るよ――僕、疲れちゃった」 「送って行こうか?」 「いいの。あなたは残って――」 不安げな恋人の手を押しとどめ 僕は会場を後にする。
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