episode 98  食うか食われるか

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僕が慌てて 恋人の元を去った理由――。 なんとなくそうじゃないかと思ってた。 そして案の定――。 ホテルの外で 僕を待っている一台のベントレー。 僕は迷いもなく助手席に飛び込むと ドアを閉めるのも忘れて 運転席でけだるげに項垂れる男に しがみつくように口づけた。 「どうして……どうしてあなたって人は!」 ほんの一瞬で あの完璧な恋人を裏切る罪悪感。 そして幾度も幾度もこの人に屈する 己の弱さに――。 「どうして僕を……惑わせる!」 こみあげる悔しさをぶつけるように 拳で征司の胸を叩く。 きっと僕がここに来る事だって分かっていた。 なんでもお見通しで ――征司お兄様は狡いんだ。 「どうして僕を……愛したりするんだよ!」 それが証拠に こんな時に限ってされるがまま――。 理不尽な僕の拳を受け止め続けている。
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