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僕が慌てて
恋人の元を去った理由――。
なんとなくそうじゃないかと思ってた。
そして案の定――。
ホテルの外で
僕を待っている一台のベントレー。
僕は迷いもなく助手席に飛び込むと
ドアを閉めるのも忘れて
運転席でけだるげに項垂れる男に
しがみつくように口づけた。
「どうして……どうしてあなたって人は!」
ほんの一瞬で
あの完璧な恋人を裏切る罪悪感。
そして幾度も幾度もこの人に屈する
己の弱さに――。
「どうして僕を……惑わせる!」
こみあげる悔しさをぶつけるように
拳で征司の胸を叩く。
きっと僕がここに来る事だって分かっていた。
なんでもお見通しで
――征司お兄様は狡いんだ。
「どうして僕を……愛したりするんだよ!」
それが証拠に
こんな時に限ってされるがまま――。
理不尽な僕の拳を受け止め続けている。
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