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「今の自分も、俺をそうやって見る、愛美さんのきつい目も」
続けざま、愛美さんの手を引いて顔を近付けた。
「……好きだよ、他の理屈には全部目を瞑ってしまえるくらい」
ハッと息を飲んで目を見開く愛美さんの口唇に、もう一度口付ける。
空いた方の手で、愛美さんは俺の肩を叩いて抵抗した。
自分でも、どうしてこんなに図々しいことが平気でできるのか、と思うことがある。
だけど、それはこうして愛美さんに声で発する言葉ではない言葉で訊けば、すぐに判ることで。
自分は朝日奈英雄のもので、だから他の男と触れ合うのは嫌で──普段の愛美さんはきっと、そう思ってる。
だけど、決して嫌いじゃないんだ。
こうして「俺とキスをすること」は。
もちろん、口唇を離してしまえば愛美さんは罪悪感でいっぱいになるんだろう。
だから、俺を責めるように見つめる。
だけど本当は、愛美さんだって判ってる筈なんだ。
本当に俺との関わりを絶ちたいなら佐奈さんに言えばいい。「坂田仁志が強引に迫ってくるから、ここでの待ち合わせは嫌だ」と。
俺と何度もこうして危ないことをしてる、なんてわざわざ告白しなくたって、その話くらいはできるだろう。
けど、愛美さんはそれをしないでノコノコやってくるんだ、母校であるこの高校に。
そこに付け込んじゃ駄目なの? なんて思ってしまう俺も、同類だけど。
でも、うっかり強引に抱いてしまわないようにはしている。
それが、最低な俺の最低限のルール。
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