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愛美さんと遭遇すればこうして仕掛けずにはいられないくせして、今すぐ奪い取る気にならないのは、それだけこのひとが厄介な女性だから、ということなんだろう。
さすがにそれは認めざるを得ない。
けど、責任のほとんどを英雄くんに任せっぱなしで、自分はたまにこうしてちょっとおいしいところだけをいただく……というのはハイエナの習性とよく似ている気がした。
ライオンやトラになれるとは思ってないけど。
「……どうしてくれるの、とか言う前に、俺に会うかも知れないって判っててここに来る愛美さんがどうかしてるんだよ」
クス、と他意なく微笑むと、ただでさえ赤かった愛美さんの顔が、もっと赤くなってしまった。
こういう言い方をすると、愛美さんはひどく恥ずかしがる。
それでどうして泣いて逃げないのか、という心理は俺にはよく判らないけど、愛美さんのこういう反応が妙に好きだ。
もしかしたら、彼女自身よりも……なんてのは考えないようにしてるけど。
「……仁志くん、イジワルだ。前はそんなひとじゃなかったのに……」
「そんなこと、言われても……」
「……」
「……でも、愛美さん、前の俺より気に入ってるでしょう?」
愛美さんの目がキッ、と俺を睨みつける。
「正直な話ね」
胸元で軽く握られたままの愛美さんの右手を取った。
「俺もね、嫌いじゃない」
「……何が」
愛美さんの目が、警戒の色に染まる。
俺なんか無視してさっさと帰ってしまえばいいものを、馬鹿正直に口唇をぎゅっと噛み締めてこちらを睨みつける。
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