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「……そんな顔、しないで。ひどいことを言ってるのは、判ってるから」
ソーサーにカップを置いて、手にしている煙草から立ち上る煙を眺める。
そう、判っている。
愛美さんが、俺に助けを求めているということは。
そうして必要とされるのは嬉しい。
だけど、ひとつしかない椅子が空いたからどうぞ、という感じがどうにも否めない。
それが気に入らない──なんて子どもじみているけど、実際俺は高校生のガキだ。
気に入らないことは、もうひとつあった。
「今の俺の失望に比べたら、何でもないと思う……」
愛美さんの口唇が、ぎゅっと噛み締められた。泣きたいのを我慢しているときの表情だ。
この半年、この顔を何度も見てきた。指一本愛美さんには触れないで、泣かせたこともあっただろうか。
軽くくすぶる怒りを堪えたくて、手にあった煙草を吸った。
「……あなたは結局誰でもいいのかなって、そう思った俺の気持ち、判る?」
もう少し楽しみが残っている煙草を灰皿に押し付けて、ちりちりと焦げながら小さくなっていく火を眺める。
……英雄くんの友達、というのは実にお手軽で、そして実にいけない相手だと思う。
それが、以前ゲームセンターで俺に嫉妬心をむき出しにしたあのいけすかない眼鏡の男、というのが一番気に入らない。
判ってるよ、俺のこれだって充分醜い嫉妬だってこと。
「ここ半年の
愛美さんとのやり取りはね。
あなたとだからしてきたことだし、
あなたとだからできたことだし、
楽しかったんだって、
俺はそう思ってる。
けど、愛美さんは違ったのかな」
「違……っ」
愛美さんが俺の浅はかな思惑に気付いても気付かなくても、このやり取りは必要だ。
俺は喉の辺りまでせり上がってきた、怒りという名の嫉妬を堪えながら、なるべく平淡な口調を装った。
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