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「何が違うの? 俺の言ったセリフを一言一句違えず言ってさえいれば、他の男でも喜んでたんじゃない?」
愛美さんは瞳を潤ませて、かぶりを振った。
……うん、判ってるよ。判ってるけど。
彼女の迂闊さは全部俺が引っ張り出したもの、それは判ってるけど。
俺とは別の「共犯者」を作ってしまった愛美さんを、許してはいけないんだ。彼女の為にも。
判っていながら、こんな終わりは望んでなかった俺の気持ちなんて、押し通せない。
「……責めても、もう済んだことだし、どうしようもないけど……」
溜め息をつきながら、愛美さんを正面から見つめる。愛美さんは、潤んだ瞳でそれを受け止めた。
……さて、終わりにしないと、だよね。
こんな状況嫌だな、とまだぼやく自分を押し込める。
それは、さっき俺にささやきかけた悪魔と同じ顔をしていた。
「もう会わないとか、
そんな冷たいことは言わないけど……
今後、俺と今までみたいな
遊びができるとは……もう思わないで」
愛美さんの肩が震えたのを見届けて、俺は立ち上がった。
未練なのは判っているけど、英雄くん以外の男と寝てきた彼女をどうしても許せない。
目を瞑れないことがある以上──俺も引くしかないじゃないか。
完全犯罪のうちに、どうしても手に入れたいひとだった。
現実から目をそらして、どこか違う場所へ飛んでいってしまいたい。
俺にだって、そういう気持ちになることくらい、あるに決まってるだろう。
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