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何回、そうして愛美さんと戯れただろうか。
覚えたてのサルのよう、っていう形容詞がすごく似合っていたと自分でも思う。
そんな熱病みたいなぼやけた日々がずっと続くわけないって、判ってはいたけど。
愛美さんは、あっさりと俺から逃げた。
季節はずれの海を目の前に、走り去った愛美さんを追うという発想が俺には出てこなかった。
ああ、何だ、終わりが今だっただけの話か、なんて。
泣きたくなるわけでもなく、ただぼんやりと冷たい風に乗ってくる潮の香りを少し鬱陶しく思った。
手持ち無沙汰になって、ハッと気付く。
コートのポケットを探ると、そこには封を切っていない煙草が入っていた。もちろん、自分で入れたものだ。
クール・マックス・8・ボックス。
愛美さんと付き合い出してしばらくしてから、急に思い立って深夜のコンビニに繰り出した。
やっぱり客の顔をろくに見もしない店員は、何の疑いもなく俺に煙草を渡した。
……何で、流華さんのと同じのを買ってしまったんだろう。
包装フィルムをピリッと切って箱を開けると、懐かしい匂いがした。
その匂いだけで思わず反応しそうになった下半身にお前は馬鹿か、と口の中で呟いて、堤防に腰を下ろす。
こんなところで火を点けて吸うわけにもいかなくて、とりあえず咥えるだけにした。
フィルターの先を軽く嘗めて、すう……と吸い込む。
かすかなメンソールの香りが、ひどく心を落ち着かせる。
これは絶対10代の落ち着き方じゃない、と思いながら何度かそうして深呼吸を繰り返した。
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