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「見ろ、坂田。あの落ち着き払った顔。憎たらしいと思わないか」
「ちょっと、何なのよ。失礼じゃない?」
「ちょっと前までは、“男が欲しくて堪らない”って顔に書いてあったのにな」
額田先生のその言葉に、さすがに愛美さんは眉根を寄せる。
言われてみれば、その怒り方ひとつとっても、以前とはまったく違う気がした。
「額田、やめてくれない。赤ちゃんに聞こえたらどうすんのよ」
「聞いてても判りゃしないよ。言ってる俺にしたって、褒めてるつもりだし」
「今のが褒めてるとか、アタマおかしいんじゃない」
グラスに入った牛乳をこくこくと飲みながら、愛美さんは今の軽い苛立ちを吐き出すようにふうと息をついた。
「ほらな。弄りがいがない。俺としては、なんかつまらないし寂しい」
「あんたの娯楽として生きるなんてまっぴら。佐奈の胸へお帰り」
そのやりとりに、思わず笑いが漏れた。
俺は愛美さんが腰かけている椅子のそば、ベッドに浅く腰を下ろす。
今、食堂の前で買ってきたばかりのコーラの蓋を開けながら、俺は愛美さんを見た。
「そろそろ、生まれるんですか?」
「それね、みんなに言われるんだけど、まだ7カ月なんだよねー。腹帯したらめちゃめちゃ大きく見えちゃって。本当は見た目より身体軽いから動けるのに、優しくされまくっちゃって、微妙」
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