【番外編】Perfect Crime-2

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   あまりに何も感じないので、愛美さんをじっと見つめながら、ベッドの中の彼女の記憶を手繰り寄せてみたけど──やっぱり、脳が同じ人だと認識するのを拒否しているような気がしてしまう。  愛美さんだという認識はあるけど、あれほど俺の危ない部分を揺り動かしたひととは違う、的な。  そのとき、自分の思考回路が不謹慎なものだということにようやく気付いた。  もうすぐ出産という大仕事を控えている女性に対して、なんてことを考えてしまったんだろう──と軽く焦って。  何だ、自分にもまだまともな部分はあるじゃないか、とも思った。  そのとき、校内放送を知らせる音が廊下で鳴り響いた。 『──お知らせいたします。額田先生、額田先生。職員室までお戻り下さい』  ん、と不機嫌そうに眉をひそめると、額田先生はだるそうに立ち上がった。  愛美さんと俺の顔をじっくりと見比べて──俺に視線を向けると、彼は何でもないことのように、実にあっさりと言い放つ。 「孕んだ女に妙な気起こす程、お前は下衆じゃないし、餓えてもないよな。留守は頼んだ」 「な……っ」  思わず絶句してしまったのは、今の今まで俺が考えていたことを見透かされたような気分になったからだった。  俺が信じられない、という顔で額田先生を凝視していると、愛美さんがはー、と低く溜め息をついた。 「あんたじゃあるまいし、仁志くんに限ってそんなこと、ないない」 「お前もね、何だと思ってんだ。俺を」  愛美さんと額田先生とのやり取りで、別に頭の中を見透かされたわけじゃないことを悟って、妙にほっとした。 .
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