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「何と言うか、浮足立ってますね」
「将一くんがあんなところで立っていたからじゃないの?」
慣れた駅前の道を、慣れるしかなくなった視線を浴びながら歩く。
将一に集まる視線のはずが、今では泉水にもその視線が向けられていた。将一の半分以下の量とは言っても慣れない。生徒会長として体育館で壇上に登るのもまだ慣れていないというのに。
「いや、そうではなくて……、ほら、あのお店とかいつもより人が多い」
将一が指差したのは駅前で割と人気のある洋菓子店。
ピンクの装飾が目立つ店内には女性客で溢れそうになっていた。
「バレンタインねぇ……。将一くんは毎年教室が埋まるくらい貰っているんでしょ?」
「教室が埋まるくらいはさすがに無いですよ」
「…………」
あはは、と笑う将一に呆れていいのか怒っていいのか分からなくなる。
「さぞかし交際経験は豊富なんでしょうね?」
嫌味で言ったつもりがきょとんとした目が先に返って来て、泉水は驚いてまばたきを数回繰り返した。
「そう、見えますか?」
思わぬ返答に思考が追い付かない。
泉水にとっては高校生らしい世間話のつもりだった。
教室でそういう話をしているのを一年以上聞いて来た。昇藍学院はもっと真面目なのか?
「見える見えないで言えば、とっかえひっかえ……みたいな」
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