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意識を電話の向こうに集中させるが、わずかに震える右手は無視できない。無意識にペンを求める手を理性で抑えた。
『ここのところ毎日残業ですね。ちゃんと眠れてますか?』
「うーん……、どうなんだろ。勉強してる間は時間の感覚はないし、学校に来たら授業と生徒会のことばかりしているから体調のことにまで気が回っていないかも」
言われてみれば目の疲れが気になるかもしれない。黒板の目がかすむ時があるのを思い出す。視力に影響はないが。
『……泉水さんって、どこか抜けてますよね』
「それは悪口ってことで良いの?」
『まさか』
そんなわけないじゃないですか、と言う将一の声に感情は感じ取れず、果たして冗談なのか本気なのかと疑わずにはいられない。
単純に敵意を向けられていた頃に比べれば丸くなったことは確かではあるものの、どうも遊ばれている感が否めない。それこそ家庭教師のあの男と二人掛かりで。
『ちなみになんですけど』
電話の向こう、将一の声の他に雑音と呼べる音が聞こえた。
外にいるのだろう。
「なんでしょう?」
『もうすぐ桐丘に着きます』
「…………」
本当に迎えに来てくれていたのか。
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