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◆◆◆
通信を終えると、深々と車椅子に身を沈める。
重いこめかみを親指と人さし指で解しながら、首を回すと凝り固まった筋肉が少しだけ緩和された気がした。
肘掛けに乗せようとした右手が勢いあまり、傍らのテーブルに触れる。すぐさま反射的に腕を引っ込めたものの遅かった。
派手な音を立てながら分厚いファイルの山が崩れていく。
小さな雪崩が止むのを待つしかない僕は昼食へと左手を伸ばす。おにぎりに添えられた玉子焼きは懐かしい味がした。
もごもごと咀嚼しながら、壁際に備えられたコーヒーマシンに近付く。見たくない現実に背を向けるようにコーヒーを注ぐと、しばし惚けた。
「僕を……」
言いかけて呑み込む。この世界に放った所で何も変わらない事を、嫌というくらいに知っていた。
先程まで熱さをたたえた液体は、みるまに冷たさを増していく。
振り返れば、乱れに乱れたファイルの山。一口もコーヒーを飲まぬまま、どこかに置きもしないまま、マグカップを手に戻る。
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