第2話 千夏と母と

3/35
前へ
/35ページ
次へ
ネタ帳の志穂さんもそうだが、彼女の小説〈ストーカープリンス〉にも、微妙な変化がみられる。 毒のような主人公キラー(草太)は、恋を始めてしまった。 ターゲットの女性を守りたいと考える草太、ターゲットの女性に恐怖を与えたい草太の裏の顔キラー。 女性はキラーに怯え、草太にすがりつく。 草太の葛藤が始まる。 ◇◇ そして、電車の揺れは心地よい。 5分おきに車輌の扉は駅で開いて、人々は外に降り立ち、別の顔がこの移動手段の中へ入ってくる。 《ストーカープリンス、すごく良くなってきたと思う》 《そうですか? 清春さんにそう言ってもらえると、うれしいです》 《僕も新しい小説を書こうかなって思った。そんな気にさせてくれる感じ? ほんと面白い》 《へへ、あんまりおだててもダメですよ。なにも出ませんから》 電波のむこうで、志穂さんが笑っているのがわかる。 仕事場でも、少しずつ人の輪に入ってゆく努力を始めたらしい。 《清春さんの新しい小説、読んでみたいな!》 そう、新しい小説を、僕は書きたいと思っている。 電車内のモニターが、新竹ノ橋の文字を映した。 僕の住む、町の名前だ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加