二月、第二金曜日

15/17
前へ
/17ページ
次へ
 長閑な夜が訪れた。  帰宅直後にソファでうたた寝をして、一時だけ悪趣味な夢を見た――という後ろめたい錯覚に誤魔化せそうな夜を迎えても、俺はまだ戸惑っていた。  恐らく、唯も。  食事の前、感情に任せて暴力を振るったことは謝罪して許しを得たが、今日の出来事は忘れられないだろう。  ……何故なら。 「取り寄せ?」 「うん」  手荒い行為の後だ――顔を少ししかめてそろりと隣に腰を下ろした唯は、赤い包装紙に白のリボンの小箱と、シャンパンゴールドとダークブラウンの二色でラッピングされた箱を俺に差し出す。 「飲み物に溶かしていただくチョコと、スカーフです。……気に入ってくれたらいいけど」 「……ありがとう」  ……ああ、そうだ。  今日は、聖バレンタインの日。 「俺は……」  変わらず彼女と相愛でいると確かめたい焦りもあった。  でも今は、傷付き傷付けられた彼女に出来ることをしたい、そんな強い思いがある。  一部微かに赤黒くなった頬を掌で包み、顔を寄せる。  ……ごめんなさい――……  柔らかさと罪悪感を手にして重ねた唇の間から、か細く、悲痛な声がした。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加