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長閑な夜が訪れた。
帰宅直後にソファでうたた寝をして、一時だけ悪趣味な夢を見た――という後ろめたい錯覚に誤魔化せそうな夜を迎えても、俺はまだ戸惑っていた。
恐らく、唯も。
食事の前、感情に任せて暴力を振るったことは謝罪して許しを得たが、今日の出来事は忘れられないだろう。
……何故なら。
「取り寄せ?」
「うん」
手荒い行為の後だ――顔を少ししかめてそろりと隣に腰を下ろした唯は、赤い包装紙に白のリボンの小箱と、シャンパンゴールドとダークブラウンの二色でラッピングされた箱を俺に差し出す。
「飲み物に溶かしていただくチョコと、スカーフです。……気に入ってくれたらいいけど」
「……ありがとう」
……ああ、そうだ。
今日は、聖バレンタインの日。
「俺は……」
変わらず彼女と相愛でいると確かめたい焦りもあった。
でも今は、傷付き傷付けられた彼女に出来ることをしたい、そんな強い思いがある。
一部微かに赤黒くなった頬を掌で包み、顔を寄せる。
……ごめんなさい――……
柔らかさと罪悪感を手にして重ねた唇の間から、か細く、悲痛な声がした。
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