二月、第二金曜日

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「それじゃ。彼女に風邪ひかすなよ」  口の端を歪めて笑ったやつがバイクに跨がってエンジンをかける姿を、俺は今すぐ階段を駆け上がって部屋に向かいたい気持ちを堪えて見つめていた。  こいつの乗るNC30は確かに年期ものだが、手入れは行き届いている。  なら暖機は軽くでいいだろう。  出ていけ、早く。 「――……」  ホンダ車らしく静かなエンジン音を聴き、やつが遠く走り去るのを耳で確かめつつ、ガレージにしまう時間を惜しんで自転車を担いだまま階段を上がる。  部屋の鍵は掛かっている。  おそらく唯が戸締まりを――と、鍵を手にして安堵しかけた俺の不安は簡単に消えてくれない。  錠前破りはやつの特技じゃないか。 「……」  ドアを開け、薄暗い部屋を見渡す。  唯の姿は、ない。
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