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床板を鳴らす靴音がいつもより大きい気がする。
クリートを装着した自転車用シューズのせいだ。そんなことさえとうに忘れている俺の視界の隅を、白いものがかすめた。
ソファ前に設置したテーブルの上には、マグカップが一つ。
ほのかに光を反射しているマグカップが、俺の不安をこれ以上になく押し上げる。
……唯。
どうか――
窓から射し込むくすんだ銀色の光が白く浮き出させたものに目が行く。
ベッドの上で眠っているらしき唯の、剥き出しの腕。
ドアの先に進めない。
見たくないもの、確かめたくないものを明確にしてしまう気ばかりが俺に臆病風を吹かせ、動けない。
「……唯?」
穏やかに発したつもりの声が、微かに震えた。
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