やはり主人公がいないプロローグ

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彼女は小さい頃から世界が広いと理解していた。地図的な意味で広いと理解していた訳ではなく、見聞的な意味での事だ。 もちろんその過程で、自分は世界の中の一部なのだという事に気付き、誰もが皆矮小でちっぽけな存在だと分かってしまったのだ。 そんな固定観念を抱いたままこの年になってしまった彼女には、世界がどうしても色褪せたモノに見えて仕方がなかった。 だからなのだろうか。全てに諦めたかのような瞳をしているのに、その奥にまだ光輝く希望を残しているのは。 (はぁ……早く私の番になってほしいです。早く終わらせてゲームでもしたいです) そんな彼女はゲームの事しか頭に無かった。 彼女の世界の文明は意外に地球並みに発達しており、もちろんTVゲームなどもかなり普及していた。だが、原動力は地球のとは全く違うらしいが。 「次は…………ちっ。ミレア・アポロメント」 「…………はっ。私ですか……今行きます」 思考に没頭していた頭を覚醒させた彼女は自分が呼ばれた事に気付き、少し慌て気味に先ほどの生徒が竜を出した陣へと小走りする。その際に陰湿な陰口や、足を掛けて転かそうとする輩が居たのだが、彼女は全て華麗にスルーして陣へと到達した。 「…………早くしろ」 「分かりました」 彼女は陣の上で深呼吸をして、何かを力任せではなく溶け込むように……上手く陣と同化するように綺麗に流していく。それは端から見ている皆が嫉妬のあまり舌打ちを繰り返す程の美麗さであった。 ここで彼女はあることを思い出す。 (確か……願いにも反応する事があるって聞いたことがありますね…………やってみましょうか) その噂らしき話を鵜呑みにして、彼女はゆっくりと目を閉じて願った………… ───自分と同じような者が来ることを。 「───へ? ここどこ? まさか召喚されたのか?」 この邂逅がこれからの彼女を変えていく事になるのだが…………今、目を見開いて驚いている彼女は知る由もない……。
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