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「…………凄いですね」
いきなり拍手を止めたミレアは、俺を数秒間見詰めたあとにそう呟く。その発言に俺は眉根を寄せる。
「ん? どういうことだ?」
「いえ、何でもないです。さ、早く入りましょう」
俺の視線から逃れたミレアは、ちょっと慌てた様子で重厚な扉に手をかける。それに俺は何も言わずにミレアを見守る。
今一瞬……嬉しそうな顔をしてたような気がしたんだが……気のせいか。
ミレアが力を込めると容易に開くとは思えなかった重厚な扉は、意図も簡単にギギギッと開いていった。ミレアが中へと入っていったので、扉を不思議そうに見つめながら俺も中へと入る。
「うわっ……人が多いなぁ……」
中はざわざわとしていた。
決してカ○ジのような疑問に満ちたざわざわではなく、楽しく友達と談笑しているようなざわざわである。
とても授業中とは思えない。
「セイム、はぐれないでくださいよ? ただでさえ小さいんですから」
「余計なお世話だっつうの。ミレアに言われなくても───おっとっと……」
人のごった返す体育館に入った途端にミレアに注意された。少し呆れながらも大丈夫だ、と言ってやろうとしたときに後ろの男子生徒にぶつかられてしまった。
あまりにも不意だったので、体のバランスを崩して前のめりになってしまう。それでも倒れないように前へと進みながらバランスを整える。
バランスが整った所で振り返る。
「───まぁ、こんな風に大丈夫だ…………って、ん?」
あれ? ミレアが……いない?
「おーい! ミレアー!」
俺は先程まで自分がいたと思われる場所へと戻ってミレアの名前を呼ぶ。しかし、あまりにもうるさい周りの喧騒にかき消されてしまう。
「…………これは俺が迷子なのか? ミレアが迷子なのか?」
よし、現実逃避タイムに入ろうか。
俺は不可抗力でその場を離され、違う場所へと移動してしまった。でも、ミレアが居ない事に気付いた俺はすぐに先程まで自分がいたところへと戻ってミレアの名前を呼んだ。
そして現在に至る。
「……よし! 俺は迷子じゃないな!」
「迷子ですよ」
ゴチンッ!
「ふおぉ…………頭、頭がぁ……!?」
涙目になりながら声が聞こえた後ろへと振り返ると、そこには拳をグーにしていたミレアが居た。
拳骨、ダメ、絶対。
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