残虐から始まる物語に唾を吐く物語も多い

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 しばらくすれば今の非常ベルの意味を釈明する放送が流れるだろう。  そう考えた僕と小無雁はしばらく無言のままその場にいたが、3分、4分と待っても一向に放送が入らない。  目を見合わせ、放送が入らないそれ以上の異変に気が付くことに時間はあまり必要としなかった。  それは、僕たち以外、誰もいないこと。  どう考えても異質だ。仮にも緊急事態を伝える非常ベルだ。ほぼ安全圏といえる一階の生徒たちは様子見をすることができるとして、2階以降の生徒が下の階へ降りる音くらい聞こえてもいいはずだ。  それとも、この学校に僕と小無雁さん以外に誰もいないというのか。だとしたら、火はどこから上がったのか。誰がベルを鳴らしたのか。 「おかしい」僕が呪文のように呟くと 「おかしい」続いて小無雁が反芻する。自動オカルトヘアーも緊張感で静電気を帯びていた。  教室を出て、廊下を見渡した。僕の教室は3年A組なので、教室を出たところで棟の奥の教室まで一望することができた。  やはり、人の気配はない。夕闇に染まりだす教室棟は背筋を突き刺すような不気味な空気を漂わせている。近くにあった蛍光灯を点灯させるスイッチをONにするが、廊下の蛍光灯はまったく反応しない。  なにかおかしい。  さっさと帰った方がいい。そう思って教室へ戻る。まとめた荷物を取りに行くためだ。 「おい、小無雁……」  教室内に小無雁はまだ居た。先ほどの位置のまま。  いや、正確には居たままだった。  血の付いた僕の荷物。床に転がるデジタルカメラと切り抜き。そして彼女の首。だるま落としのように残された身体はふらふらと不安定なバランスをとって立っていたが、力尽きたのか、膝から崩れ落ちた。  何が起きたのか理解できず、小無雁が死んでいることだけを認識した僕は、声にならない声すらあげられないまま、ただそこに分裂した彼女を眺めていた。  
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