残虐から始まる物語はとても多い

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 教室を後にしたところで、今までに何度も聴いてきた呼び鈴が響いた。  分厚い金属を打ち付けたような、色で表現するなら、鈍色のような音色だが、今の現代日本ではこれら全て、電子で構築された音だと思うとどこからともなく吐き気がした。  記号を音覚化した存在を何の疑いもせずに「音」そのものだと誤認識し、なんの疑問もなく耳に流し込み続ける私達自身にも、軽蔑や冷笑に似た感情を覚えた。  私が欲しいのは、私という存在が私という存在を認めるには、数字やデータや見立てや言葉ではなく。  その先の、 --0距離の証明  私たちはここに生きていて、感情表現をかき鳴らすことができる既成事実を、全ての価値観から立証できる根拠。  痛覚を持ち、本能と欲を知り、学ぶことを学び、他人の不幸にはパンケーキを持って待機して、自らが死ぬ寸前に世界の広さを悟る。燃えるように消費して、涙を流す冷却機能を併せ持つ。  拒絶されることを嫌い、火のないところに煙を立てる中毒者。  誰だって、誰だって、誰だって、誰だって。  あれ、私って、誰だっけ。  斧を忘れた。  きびすを返し、上靴に付着した生命を少し飛ばし、スマートに教室を後にできなかった私に減点し、ぽたぽた垂らした道を逆に辿った。  
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