残虐から始まる物語に唾を吐く物語も多い

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「誰よりも屈強で、頭脳明晰で、壮大であると思っている自分が、学校を休める機会が目の前に吊るされるだけで、誰よりも貧弱で、卑下される存在であることを願うようになるの。この回避できない矛盾があるから、私は思春期の自己顕示欲が嫌いなの」 「それで何が言いたいのさ」 「残虐から始まる物語もその一例に過ぎないという事よ坂下(さこれ)くん」 「だから、坂下(さかした)でいいって」 「本来の名前を呼んであげるのが相手への礼儀よ坂下(さこれ)くん」 「ああはいはい。じゃあ坂下(さこれ)でいいよ」 「これで、ややこしくなくなったわね」  今日という日を消費するにあたって僕がすべきことは、帰宅して、入浴して、ちょっと娯楽を混ぜて、寝るだけなのだ。半日少し後にはペンと教科書をもってまた登校しないといけない学校なんて、用がないなら居るだけ時間の浪費だ。だから、僕は1分でも1秒でもコンマ1秒でも早く帰りたいのが本心だ。  それなのに、小無雁はこの放課後を楽しそうに過ごしている。まるで、最初から放課後のために登校しているのではないのかと思えるくらいだ。それなら、別にもう登校しなくても放課後だけ来ればいいんじゃないか、とすら思った。  そして、中学生の時に「給食を食べるために学校へきている」と豪語する友達にも同じようなことを思ったことを思いだした。 「この新聞記事を知っているかしら」  荷物を束ねてすぐにでも帰る体勢でいた僕の元へ小無雁は歩み寄り、二つ折りにした新聞紙の切り抜きを手渡してきた。
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