残虐から始まる物語に唾を吐く物語も多い

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「で、考えた可能性は2つ。『嗅ぎつけられない自信がある』か『ミスリードのための小道具』」 「今さっきこの斧が凶器で間違いないと言ったじゃないか」 「あら、推理の世界で仮説と推測は重要だけど断定はゴハットよ」 「探偵気取りかい」 「気取りとは人聞き悪いわ。ごっこよ。ごっこ」    ごっこも決していい響きではないぞ、と言いたくなるが喉もとで押し込んだ。 「話を戻すわよ。とにかく、この斧は犯人のミスではないわ。意図的な行為よ」 「だとしたら?」 「だとしたら、  小無雁が僕の質問に対する回答を続けようとした時、普段の学校生活では聞くことはそうないであろうけたたましい大音量が耳をつんざいた。  騒々しい目覚まし時計のような、無意識下の生存本能がいきなり目を覚ますような、この音は--火災ベルだ。  避難訓練で何度か耳にしたことがある。過剰ともいえるこの国の安全意識を尊重するベルだ。 「あら、火事かしら」 「誤報じゃないの」  意味合いとしては非常事態ともいえるこの状況で、僕も小無雁も驚くくらい、自分自身でも驚くくらいに落ち着いていられた。  放課後という時間帯のせいか、いまいち現実味を得られない為かもしれない。  いずれにせよ、非常事態ならすぐにでも逃げ出すことができる場所だし(1階教室棟)、事なきを得て終われるならそれに越したこともないと考えるくらいだ。危険は目前にあるという教えはこの国特有の閉塞的ともいえる安全意識の賜物である。  人は、自分の事でなければここまで無関心でいられる生物なのだ。
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