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「クライスト、マリア、イェホァ、ゼウス、アラー、釈迦、その他諸々、八百万の神様に誓います」
「それが貴方の信念ならば、よろしいでしょう」裁判官は、眉一つ動かさなかった。
私は何も、おふざけで言ったわけではない。己の命が掛かった裁判でおふざけをするほど、傲慢ではないつもりだ。ただ、知りたかった。人間を裁くものは、どの神に触手を動かすのかと。だが、帰ってきた言葉は、あまりに淡白だった。「信念を尊重する」という、またもアメリカ被れの発言だ。本当にここは、私が生まれ育った日本だろうか? 僅かな時間で、こんなに変わってしまうものなのか?
「それでは、えっと……」裁判官は、何かおぼつかない様子で、己の机上を凝視した。「失礼、引き続き人定尋問に移ります」
なるほど、そういうことか。私は気付いてしまった。
この裁判官は素人だ。それもそのはず、この法廷に入るまでに見た、無数の法廷。日本中の目ぼしい場所に、同様の施設があるだろう。正規の裁判官が足りるわけがない。例え全ての「元」裁判官を動員してもだ。
私は己の命を、知識も経験も乏しい、どこぞの馬の骨に委ねる。「全ての人間は、等しく裁きを受ける権利がある」とは、やはり笑わせてくれる。
いや、もしかしたら、裁判官は全員、今の科学力で、同一の理念を刷り込まれているのかもしれない。無論そんな技術は聞いたことがないが、それならば、あの言葉も信憑性があるというものだ。
「被告人、氏名は?」裁判官は、私の嘲りの視線を気にすることなく、人定尋問を始めた。
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