出廷

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「貴様ら!! 人間の命を何だと思ってやがる!! 畜生!! やめろ!! やめてくれ……」過ぎ去った扉から聞こえる声が、私の後ろ髪を僅かに引いた。  この弁護人が、「苦痛はない」と、言ったからには、恐らく本当だろう。それが彼にとって、唯一の救いだろうか?  私が立ち止まるのを恐れているのか、弁護人はせわしなくこちらを振り返る。煩わしくなった私は、弁護人の前を歩くことにした。  被告人の弁護人と言えば、映画の中では悪者の代名詞だ。詭弁を振るい、必要とあらば、無実の関係者達の尊厳すら踏みにじる。私の性癖など、恰好の的だろう。 大抵は皆、小綺麗なスーツを纏い、気味の悪い表情を浮かべている。そう、まるでこの弁護人のように。  依頼人には精神誠意尽くしているように見せ、裏では荒稼ぎした金銭で、それこそ非合法に近いような贅の限りを尽くしている。その結果、どんなに高級なスーツを纏おうとも、どんなに高級な香水を振っていても、腐った内面と腐りかけた内臓からにじみ出る口臭は、どぶの臭いがする。それは腐乱した死体よりもたちが悪い。そう、まるでこの弁護人のように。
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