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季節は夏。
うだるような暑さと、蝉のけたたましい声が煩わしいこの季節。僕は学校へと向かっていた。
この村に唯一存在する高校の3年生。それが僕だ。
次いで言うと、名門一族の劣等生。……それが僕だ。
アスファルトの舗装などまるでされていないがたがたの畦道を歩く。歩く。歩く。
村唯一の高校なので、家から多少遠くても文句など言っていられない。しかし一言苦言を呈するならば、自転車での通学を許可して欲しい。こうも日差しの強い日に30分以上歩かせるなんてどうかしている。健康の為という名目で禁止されているが……どう考えてもこっちの方がよっぽど不健康だ。医者の息子が言うんだ、間違いない。
「ん……あれは?」
僕は畦道の端に猫を見た。子供なのだろう、傍らで親猫が鳴いていた。
車にでもはねられたのか、夥しい深紅(あか)を撒き散らしていた。四肢はあらぬ方向へ曲がり、腹は裂け臓物が顔を出す。
まだはねられて間がないのか、時々ビクンと身体を震わせていた。
僕は見ていた。その光景を見ていた。助けようとは思わなかった。一目で無理だとわかったからだ。
それから程なくして、子猫は『ミャオ』と掠れた声をあげて、最期の声をあげて……動かなくなった。
僕は動けないでいた。
1分?
5分?
10分?
1時間?
どれ程時間が経ったかわからない。深紅が酸素に触れ、やがて漆黒(くろ)に変わり果てるその時まで、僕は動けないでいた。
ふと、我に返った。下腹部に違和感を感じたためだ。違和感の正体はすぐにわかった。
僕は射精していた。
僕は興奮していたのだ。とても、とても興奮していたのだ。
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