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胴着に着替えた中学生達が嬉しそうに俺を見て一列に並んだ。
(ダル…)
溜め息を吐きそうになった瞬間、一人の中学生に目が止まった。
(………なんだ…あの子…)
誰よりも姿勢がよく、立っている姿が飛び抜けて美しい。
賢そうなキリリとした目に凛とした佇まい。
(他の子と全然違う…)
全員で始めた素振りで、俺は背中に何かが走った。
(こいつ…絶対に強い…)
「主将、あの子…誰っスか?」
「どの子?」
「あの…ほら、松岡の前の」
「ああ~。藍原…藍原慎之助(あいはら しんのすけ)だ。昔、同じ道場だった」
昔からの彼を知っているらしく『背が伸びたよなあ』なんて懐かしがり、『気になる?』と思わせ振りな態度をとる。
「気になる!絶対に強いでしょ…ハンパなく」
がっつくように主将に迫る俺を『まあ、落ち着けって』と肩を押し返す。
「気になるなら手合わせしてみなよ。自分で確かめてみるんだな」
主将は藍原を呼び俺の前に連れてきた。
「慎之助、彼が流水颯太だ」
「知っています。初めまして…お会いできて光栄です。俺は藍原慎之助です」
深々と頭を下げるその様も美しい。
たかが礼だが、されど礼だ。
俺はかなりの実力ある古老の剣士でしかこんなに美しい礼を見たことがない。
背中がまたゾクリとした。
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