アイノヒニ、コノアイヲ。

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「それから……」 駅舎の明かりの陰に離れていってしまおうとしていたさとるくんは、ブルゾンの襟にマフラーのなくなった口元を隠しながら言った。 「ホワイトデーのお返しは、……ちゃんと、俺を、あげるから」 「っ!!」 ひと月後、きっとふたりが寄り添っている姿を想像しているのもまた、お互い同じなのだ。 「じゃあ、気をつけて」と片手を上げるさとるくんから視線を落とし、踵を返した。 学校をあとにするときのような、惨めな名残惜しさはもうない。 紅くなっているであろう顔をマフラーに埋め、満足な笑みを咬み殺した。 あと少し…… 日々うわごとのように唱える言葉を、心の中で繰り返す。 バッグの中からなくなった赤い箱の重みが、心の軽さに変わり、 彼を身近に感じられるマフラーの温かさに、少しずつ近づいてくる彼との未来が、確実に現実味を帯びてきている気がした。 (おしまい)
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