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「上着とシャツを脱いで」
結局逃げ出すタイミングを失って座らせられた俺に、次の指示が飛んでくる。
「ふざけんな、言いなりになると……」
「傷を」
……は?
「診せなさい。何故ずっと来なかった」
……ただの、診、察?
思わず凝視した先の顔は、いつもの医者の顔だった。
蔑むような嗤いも微塵の甘さも含まない。
「や……だって、先生、が」
14日に来い、と。
怪我などなくてもと。
だからそれまでは、来るなってことなんだと。
言い訳は宙に消え、毒気を抜かれて、言われた通りに上半身を晒した。
あの日処置してもらった肩の傷は、とうに塞がっている。
にも関わらず、
「ほら、放置するから」
苦々しそうに眉をしかめた先生が、その傷跡にそっと触れた。
「跡が残るじゃないか」
それは医者としての、言葉なのか。
だけど傷跡を辿るその指の感触に、俺の熱は一気に高まっていく。
「別に、これくらい。もういいか?」
このままではまた流される。
何度もコケにされて嗤われて、もう掻き乱されるのは嫌だ。
早々に服を着ようとシャツに伸ばした手は
「なっ」
目標に辿り着く前に、先生に捕まった。
「何言ってるんだ。――これから、だろう」
真顔で言う先生が怖くて、
怖くて、怖くて、
怖くて
――綺麗だ。
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