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「分かっていて来たんだろ」
囚われる。
先生の目に、言葉に、
――耳に寄せられた、微かに触れる唇の感触に。
「……ざ、けんな、この変態」
足掻く。
どうしようもなくこのヒトに惹かれる気持ちに嘘は吐けないのに。
それでも
「誰でもいいのかよ男なら」
――……そうじゃないと、言って欲しくて。
「確かに」
す、と身体を離した先生が、白衣を脱ぎながら言う。
「僕は女性には欲情しない」
その言葉が、昂った気持ちを冷静に戻していく。
生理現象だから肉体的に刺激を与えられれば勃つけれど、
と、淡々と語られる解説には耳を傾けたくなかった。
そんなことを聞きたいんじゃ、ないのに。
シュッと衣擦れの音がして、気付けば先生は、首から抜き取ったネクタイを目の前に掲げてじっと見つめていた。
「可愛いね、君は」
突然自分の話に切り替わって、ぞくりと期待がもたげる。
だけど続いた言葉は、
「――制圧したくなる」
やっぱり俺の求める言葉ではなかった。
「あんまり抵抗するなよ。こういうのを使うのは趣味じゃない」
デスクの上にネクタイを放りながら、先生は言った。
それは、暴れるなら縛るという脅迫だった。
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