第1話

5/14
前へ
/15ページ
次へ
「分かっていて来たんだろ」 囚われる。 先生の目に、言葉に、 ――耳に寄せられた、微かに触れる唇の感触に。 「……ざ、けんな、この変態」 足掻く。 どうしようもなくこのヒトに惹かれる気持ちに嘘は吐けないのに。 それでも 「誰でもいいのかよ男なら」 ――……そうじゃないと、言って欲しくて。 「確かに」 す、と身体を離した先生が、白衣を脱ぎながら言う。 「僕は女性には欲情しない」 その言葉が、昂った気持ちを冷静に戻していく。 生理現象だから肉体的に刺激を与えられれば勃つけれど、 と、淡々と語られる解説には耳を傾けたくなかった。 そんなことを聞きたいんじゃ、ないのに。 シュッと衣擦れの音がして、気付けば先生は、首から抜き取ったネクタイを目の前に掲げてじっと見つめていた。 「可愛いね、君は」 突然自分の話に切り替わって、ぞくりと期待がもたげる。 だけど続いた言葉は、 「――制圧したくなる」 やっぱり俺の求める言葉ではなかった。 「あんまり抵抗するなよ。こういうのを使うのは趣味じゃない」 デスクの上にネクタイを放りながら、先生は言った。 それは、暴れるなら縛るという脅迫だった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加