第1話

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心はとっくに屈伏していた。 このヒトが俺をどうとも思っていなくても、俺はきっと抗えない。 身体は求めていた。 この間のような悦を、あれを超えるものを、先生を。 頭だけが、それを拒絶した。 「いや、だ……!」 首筋に吸いついてきた先生の頭を、必死で押し返す。 息がかかる、それだけで力が抜けた。 ざらりとした舌の感触が鎖骨から耳にかけてせり上がっただけで、下半身が反応したのが分かった。 「頑固だな。身体は正直なのに」 「……ッ」 衣服の上から軽く撫でられただけ、なのに。 はちきれそうだ。 頭にもやがかかっていく。 「やだ、いやだ」 うわごとのように繰り返しながら、先生のシャツを掴んだ。 はね退けるためではなくて。 縋りたくて。 理性は、崩壊してしまった。 ただ熱に浮かされて。 先生のシャツのボタンに、手をかけた。 「お願い、先生も」 脱いで。 言葉にならない願いはちゃんと通じたのか、満悦した顔の先生がよしよしと髪をすく。 あの時みたいに一方的に逝かされるくらいなら、一緒に――。 先生は自分からは脱ごうとしなかった。 逸る気持ちのせいで何度も指を滑らせる俺が全てのボタンを外すまで、じっと頭を撫で続けていた。 全開になったシャツから半裸が覗いて、たまらなくなる。 均整のとれた身体は、すごく綺麗だった。 両腕からそれを抜き取ると、 「良く出来ました」 先生はそう言って俺を抱きしめた。
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