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彼は足元も覚束ない様子で玄関で靴を脱ぎ、律儀にも乱雑に脱ぎ捨ててあった私の靴と一緒に玄関の端に整えて置いた。
彼のその行為に、私は先生としても女としても恥ずかしさを覚えたが、来客用のスリッパを彼の足元に置いて、スタスタと薄暗い廊下を歩き部屋へ向かった。
「そこに座ってて、今何か温かい飲み物入れるから」
リビングの中央にあるソファーを指さし、カウンターキッチンに向かった。
「わぁ、ももちゃんちだー」
熱のせいかほんのり頬を赤らめて嬉しそうにそう言うと、彼はキョロキョロと部屋を見回しながらソファーに腰を下ろした。
もう少し部屋の片づけしとけばよかったと後悔の念に襲われながらも、彼から見えないようにキッチンの死角でスウェットの上着をズボンから出した。
「はい、これ飲みなさい」
白地に緑の葉が描かれたコーヒーカップを彼に差し出すと、彼は「ありがと」と嬉しそうに微笑んだ。
私に向けられたその笑顔が、やっぱり懐かしくて愛おしく思ってしまう。
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