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長い廊下の奥には、扉が有る。
そこは、開けてはならないといつも言い聞かせられていた。
しかし、中から時折聴こえる琴の音色は美しく
いつも引き寄せられてしまう。
扉には鍵が掛かっており、開ける事はままならなかった。
その為、扉に耳をあて
その美しい音色に酔いしれる事しか出来なかった。
たまに、得意の縦笛で合わせたりもした。
妙な一体感に心が踊った。
私は、姿も解らぬ音色の主に、いつしか恋心に似た感情を懐く様になっていた。
そして、己の16の誕生日を迎えた。
夜中に、部屋を抜け出して例の扉の前に行った。
今日も琴の音が聞こえる。
誰からの祝福より、この音色の主に祝われたい。
そう思うものの、叶う事はないだろう。
声をかけても、隙間から和歌を差し入れても、返事は無かった。
しかし、一方的だとしても和歌を送り続けていた。
その和歌は、いつしか恋文へと変わっていた。
「今日は私の誕生日なのだが、そなたの誕生日はいつなのだ?」
そう、問いかけてみても
やはり返事は無かった。
今日も、駄目か
そう思い、和歌を差し入れた。
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