一章

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立ち上がった小山は全身真っ黒で、午後の日差しを照らし返すガラスでは、シルエットのようしか見えない。 だが、立ち上がるときに現れた、顔らしい部分だけは特徴が見えた。 目のような場所に二つの紅点が爛々と輝き、鏡越しの外神を見下ろしてくる。 「ず、ずすす……」 空気だけになった紙パックをしばらく吸い続けていたが、やがて口からストローを離した。 紙パックを握ったままの手を、巨体がいるであろう場所で振ってみる。 外神の腕に帰ってくる感触は無く、鏡の中の外神の腕は黒い体に突き刺さっている。 「……つまり何か。確かに見えているが、俺にも、“そちら”の俺にも触れないってことか」 高さ3m程の位置にある巨体の眼を見上げてぼやく。 「ならばお前も、“こちら”側に立っている俺の姿と、その隣に立つお前の虚像を見ているのか」 鈍く光る赤の両目は、当然というように全く反応を示さない。 「反応する機能がない?……そもそも生き物か」 しばらく目が合っているような気がしていたが、ふいに、巨体が視線をずらした。 “こちら”を――おそらくあの巨体にとってコンビニの窓ガラスを――見ていた視線を横にずらし、左右に揺らす。
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