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最初に見えたのは重苦しい夜空だった。
何層にも塗り固められた雲が視界一杯に広がっている。
曇天だ。
晴れていても何も見えないのだが、夜の曇り空というのはなぜか閉塞感を以てそこに在る。重い蓋をされた空から視線を下げていくと、天の色がグラデーションを描く。
天上を染める紫紺から、煌々と輝く緋色。
強い光を帯びた赤は、揺らぎを伴って周囲を照らし、天に手を伸ばす。
炎だ。
炎に包まれて、燃え上がる塔だ。
地上48階、243mの巨塔を飲み込んで、火焔は更に高く天へ昇っていく。周囲の建造物を巻き込んで、一つの松明のように夜を照らしていた。
轟音をたてて焼けていく巨塔の足下に、
「……」
その様をじっと見続ける影があった。
影は全身を黒衣で覆っていた。
腰まである黒髪と、全身を隠すような長衣。
目元を隠すラウンド型のサングラスには、炎の赤が反射している。
影は顔の下半分を隠すほど高いコートの襟を引いて、口許の集音マイクに言葉を送る。
「ーー東京都庁舎の陥落を確認中」
言葉の途中で息を吸うと、炎の熱気が肺腑に流れ込んでくる。それだけ近い場所にいるということだ。
「よく燃えているわ。御敵の城が」
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