9人が本棚に入れています
本棚に追加
摩天楼を覆っていた火炎は、既にその勢いのピークを過ぎた。
都庁舎を覆っていた炎の勢いが衰え始め、隙間から黒の廃墟が覗く。赤が消え、黒の色が増えていく。
夜の闇に君臨していた白亜の塔は、その姿を変えていた。
白から、煤にまみれて濁った黒。
白と黒が、入れ替わる。
終末がすぐ近くまで来ていることを悟り、黒天へと目線を上げる。
「さっき、天城が落ちていくように見えたけど」
『天城だけじゃないさ。新谷も敗れ、飛騨の刃も折れ、ジョン・ドゥも力尽きた。手持ちの兵もみんな、みんな、倒れてしまった』
だが、 と声は続く。
『数多の屍をうず高く積み重ね、その上に立った君が届いた』
「下手な打ち手ね」
『君は許しくれる』
「……そうね。一緒に地獄に堕ちてあげる」
要は一人、空を眺めた。
炎の勢いが衰え出すと共に空間が暗さを増している。
夜を過ぎても、“こちら”は朝に還るのではない。
夜を過ぎて、闇に沈んでいくのだ。
間もなく世界が終わろうとしている。
「そろそろ時間かしら。何か言い残すことはない?」
『それは私が言うことじゃないかな』
「聞いてくれるつもりだったの?ごめんなさいね」
最初のコメントを投稿しよう!